第01話

CHAPTER-01
「決定!その名はブルーナイト」




「ユウちゃん」

「・・・う~・・ん・・・」

「ユウちゃん」

「・・・・ビームランチャーからキャンセルが通用しないんだって、だからそこはダッシュキャンセルでジャンプに・・」

「ゆ・う・ちゃん♪」


耳元で囁かれた声に、寝ぼけていた裕司はオーバーリアクションで飛び起きる


「ひ・・ひひひ景ィっ!?な・・何をするんだ何をっ!!!」

「そーねぇ・・「お目覚めの甘い囁き」みたいな感じかしら?」


ここは念のために言っておくと裕司の部屋・・裕司の家の、彼の部屋である

裕司が時々寝坊すると、こうして彼女が起こしに来るのだった


「じょーだんよ、ただ起きないから試してみたくなっただけ♪」

「・・遊ぶなよぉ・・」


裕司はちょっとだけ照れくさそうに笑う景を睨みつけ、ベッドから立つ


「・・今何時?」

「一言で言うと「危機的状況」よ。」


・・裕司は景を部屋の外へぽーんと放り出すと、神業のごとき速さで仕度を始めた

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・・どたばたし過ぎた朝のおかげで、なんだか知らない間にお昼休みになっちゃったよ~

僕は嘆いてみたけど、どうにかなるわけもなかった

何となく虚しいお昼休みを送っていた僕の前に、一人の女子生徒が立った


「おや裕司くん、お疲れですか」

「・・委員長、頼むから今はほっといて」


それはクラス委員長の雫(しずく)さん。

無駄に明るくていらんトコに情報通で・・とにかく、僕にとってはいろんな意味で疲れる人。


「ふ~ん・・ならいいんですけどぉ☆」

「・・うん、ちょっと眠いだけだから」

「そうですよね♪だって裕司君はテムジンの新記録達成のために徹夜で猛特訓してたんですもんねー☆」

「・・だからほっといて」


こーして人をからかうのが、彼女のヤなとこ。

のほほんとしてるワリには厳しい突っ込み多いんだもんな~・・・

・・・しかも当たってるし。


その委員長が意地悪そうに微笑みながら行ってしまうと、代わりに迷彩のバンダナを巻いた男子生徒が歩いてきて、僕の前に立った

・・明(あき)、彼は人当たりがいいし、やや女顔で男女問わず人気がある

僕の特に親しい友達の一人だ


「裕司ぃ、忍知らないかなぁ?」

「しのぶ~?・・・ああ、手叩くとか笛吹くとかすれば来ると思うよ」

「そうか、じゃあ・・」


言って彼がホントに笛(ホイッスル)を取り出した時はもう笑うしかなかった

ぴぃー・・と軽快な音が響き渡る・・


「おう、呼んだか?」

「うわぁっ!?」


その声は「上」・・窓際にある僕の席の、その上からした。

見れば忍が・・窓の上からコウモリのように逆さまにぶら下がっている


「・・ま、またそんなトコから・・」

「まぁいちおー「忍者」らしくしねぇとな」


・・そう言う彼はホントに「忍者」だ

だって・・走る速度が並じゃないし煙玉とか持ってるし、異様に古い歴史知ってるし・・

何よりこの身のこなしがあれば、まず忍者って自称は嘘じゃない


「って忍!笛吹いたら出てくるなんてそんなどっかの魔神じゃないんだから・・!」

「?・・呼ばれて飛び出て・・って感じだったんだが」

「・・本気かい(汗)」


毎日このノリというのも、どうだろうか・・ちょっと考えてしまうときもある。

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放課後・・僕は景を待って、忍とドツキ漫才をしていた(笑)

・・あ、でも内容はベタなので割愛するよ


「お待たせ~・・」

「大変だね、パソコン部も」

「そーなのよね・・未だにマウスのボタンは左右同じだと思ってたり電源はスペースキーの長押しだと思ってたりする人が多くて・・」

「い、イヤ・・さすがにそれはないだろ?」


忍が突っ込むと、景は我に返る


「と、とにかく帰りましょうか」


今のは事実かどうか少しだけ気になりながら、僕と忍は景の後に続いた


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ところで僕は・・押しに弱い

頼まれるとイヤとは言えないトコがあるらしいが・・自覚がないんだよね


「ユウちゃん、日曜日荷物持ちよろしくね♪」

「・・・いつもみたいに?」

「お昼おごるから~・・いいでしょ?」


景はよく僕に買い物の荷物持ちをやらせる

・・君の家はお金あるんだから、使用人でも雇えばいいんじゃないの?

でも景の家ではそーいう人見たことないし、まして家自体も普通の一戸建てだった

一般的な「金持ち」という人種とは思考が違っているらしい

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翌日・・・

・・僕はそういうワケで、いつも通りという事と、「お昼おごり」という言葉のためだけに「秋葉原」に来た。

ここの路地裏にはちょっと怪しい店が展開しており、景みたいな人間にとっては天国の領域だ


「ユウちゃん、赤と青どっちがいいと思う?」

「う~ん・・僕は青かなぁ?やっぱラッキーカラーだし・・」


ここだけ聞けばデートで洋服選びする男女の会話みたいに聞こえなくもない

実際には電源ケーブルの色と、ビニールチューブやコネクタの型式番号が殺到していてとてもじゃないが・・そんな雰囲気にはならない

景が楽しそうにジャンクパーツを探したり、最新モデルのナビやそーいった機械類を眺めている

・・ああ、輝いてるねぇ

こーいう時だけ至福の笑顔を見せる景

・・普段、人前ではここまで顔がゆるんだ事ないんだよ・・?


「・・?」


景の姿がない事に気が付いたのはその瞬間だった

・・も、もう行っちゃったの!?・・

僕はすでに大量に持たされていた大荷物を振り回すように、景を探して走り回った

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その頃・・あたしはもう表通りに出ようとしていた


「一本間違えちゃったカナ・・なんか狭い・・」


建物と建物の間・・入り口が道一本分だったので騙されちゃったのよ~(泣)

道が暗かったから、早足でとにかく表に抜けようと思って・・

ちょっと開けた、広場のような場所に出た時だった


「・・え・・?」


霧が出てきた

・・おかしいわね・・こんなトコで霧なんて・・・?

疑問が生じた直後、次は背筋にぞっ・・と来る恐怖があたしの中に生まれた


・・ぉぉ・・・・


唸りにも何かの響きにも聞こえる音・・目の前の霧の中から、四つの薄く輝く光と共に聞こえてくる


「これって・・まさか・・!?」


こんな時に限ってイヤな事を思い出しちゃった・・・

そう、確かみんなが噂してた・・「霧の中の怪物」・・

あたしは急いで来た道を引き返そうとするけど、四つの光は段々霧の薄いあたしの前の空間に出てきて・・

ついに、その実体を現した


大きさは2メートル前後、四つの宝石のような目を持ち、巨大な二の腕と胴体に埋め込まれたような頭部を持つ「怪物」・・


「・・・・うそぉ・・」


あたしはこんな時だというのに、ちょっとだけ喜々とするものを感じていた

・・こんなのが、世の中にはホントにいるんだ・・

驚きと同時にそういう興味本位の喜びがあたしの気持ちを支配する

・・でも、多分これは・・危機の方が色濃いよね・・

かろうじて動く体で、あたしは後ろの霧の中へ逃げ込んだ


「出られない・・!?」


霧の中を駆け抜ける事少し・・裏通りに戻るハズが、あたしはまたあの広場に・・

・・「怪物」の目前に出てきてしまっていた


・・ひゅ・・・


「きゃぁぁっ!?」


それに気付いて止まった所に怪物の腕が伸びて・・大きな「手」であたしの身体をしっかりと掴んでいた

・・そういえば、この手の怪物といえばおおよそ相場で目的は・・


・・殺される・・!!・・


脳裏をその言葉がよぎった瞬間だった


・・ざくっっ!!!・・


細長く伸びていた怪物の腕が、「飛んできた何か」に切断された

その瞬間腕から抜け出すことはできたけど・・力が抜けて、あたしは思わず座り込んでしまった


「・・・・」


あたしと怪物の間に、その「騎士」は立っていた

青い甲冑に身を包んだ、一瞬戦隊ヒーローのサポートメカにも見える・・「ロボットのような青い騎士」


騎士は無言のまま怪物に立ち向かい、そして反対側の腕をも切り裂いた

騎士と言っても「彼」は剣を使っていない

手刀と腕についたダガーのような短刀、それだけでリーチの長い怪物と対等以上に渡り合っている


・・やがて、ダガーが怪物の頭部に突き刺さり・・・

怪物は、小さな結晶を一つ落とし、砂のように崩れ去ってしまった


騎士はくるり・・と振り返ってあたしの方を見る


憧れの王子様とはよく言ったものね・・としみじみ関心してしまう

あたしはこの「騎士様」に心動かされていた。

・・かっこいい~・・


それはあたしがロボ趣味である事と、今の活躍を見た事が両方とも関係していた


「・・大丈夫、景?」

「はい・・?」


思わずあたしは耳を疑った

だって・・ユウちゃんの声が・・


騎士様は頭部のバイザーメットに手をかけると、それを外し・・

外した瞬間、鎧が拡散するように消えてしまった

中から出てきたのは、見慣れたあたしの幼なじみの男の子・・


「ゆ、ユウちゃん?・・・なんでそんなの・・」

「・・・いや、それがね・・・何でか知らないけどこーなっちゃったんだよ・・」


ユウちゃんは説明しにくそうに手をわたわたさせている

とりあえずあたしはほっとして・・にっこり笑ってみた


「じゃあ・・なんだか知らないけれど・・ありがと、ユウちゃん。」

「・・・・ははは・・」


ユウちゃんは苦笑いで笑っている

あたしはさっきの姿を思い出してみるけど、とてもユウちゃんがあの騎士になっていたとは思えない。


「ところでユウちゃん、変身ヒーローみたいよね?」

「ヒーローって・・・そんなご大層なモンなのかな・・」

「ヒーローといえば名前よ、早速考えなくちゃ」


ユウちゃんはジト目でこっちを睨んでいる

・・そんなんどーでもいいよ、という無言の反論みたい・・

あたしはお構いなしに思いついた名前を言ってみる


「青い騎士だから「ブルー・ナイト」って感じ?」

「・・僕はどうでもいいよ、変身したくてしてるわけでもないし・・ただあの怪物が出てくると反応しちゃうみたいだし」

「怪物・・・さっきの・・」


今あたしはほっとして笑っているけれど、さっきの遭遇の衝撃、それは確かに脳裏に焼きついている

・・あんなのがまだいるとしたら・・・


「・・ユウちゃん、怪物退治さ・・あたしにもつき合わせてくれる?」

「え・・・あ、危なくない?僕は勝手に戦わされてるようなもんだけど、景は・・」

「大丈夫♪あたしには秘密兵器もあるんだから・・それにさ」


ユウちゃんは不安そうな顔であたしを見ている

あたしは精一杯の微笑みと一緒に、次の言葉を口にした


友達でしょ、あたし達♪」

「・・・・・・・・・・・・・」


しばらくの沈黙の後・・ユウちゃんは


「ありがとう」


とだけ、つぶやいた

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「ふ~ん・・・で、お前が騎士だか青いのだかになったと?」

「う、うん・・」


景は屋上で、裕司と忍を集めて話をしていた

彼女の手にはボールの形をした「ロボット」が抱えられている

小学校の時に作ったマスコットみたいなもの・・「マル」だ。

ガンダムファンの彼女だけに、かなりハロの影響を受けている


「というわけであたしたちで街を守ろうか、と思ってね♪」

「・・面白そーじゃん♪」


忍はあっさり賛同した

裕司は難しい顔をして黙っている


「・・ユウちゃん?」

「・・昨日は一応頷いたけどさぁ・・二人とも、死ぬかもしれないんだよ?」


裕司はそう言うが、忍も景も顔がにっこり笑っていた


「強い相手と戦えるなら手段は選ばんぞ」

「スーパーロボット計画の実験台がこんなトコで手に入ったんですもの♪」


・・ダメだ、この二人本気だ・・・


裕司はちょっとだけ、断らなかった昨日の自分を恨むのだった。

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こうして僕は「ブルーナイト」に変身して怪物と戦う事に・・いや、戦う羽目になった。

景が襲われたんだ、他にも人を襲うのがいるかもしれない

ケンカは嫌いだけど、僕にしかできそうもないなら、僕がやるしかない


・・あまり気は進まないけど、僕は戦う決意を決めた



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・NEXT-02「結成!僕と景と忍の組織」

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